【株式会社日本リスクマネージメント(JRM) 】 海外旅行トラブルニュースNo.24
 
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 お守りが役立つ時 海外旅行保険
[目次]
『自殺坂』と呼ばれるハイウェイにて傷害死亡・後遺傷害・治療費用担保特約
海外医療支援協会 酒井 悦嗣

     
 
『自殺坂』と呼ばれるハイウェイにて
 
     

 どこの国の高速道路でも事故多発のポイントはある。その国の人は様々な情報から予め危険を知ることができ、また日常車を使用する人々は経験からもそれを知ることができる。そのため、ある程度注意をすることは可能である。しかし、外国人や外国からの観光客でレンタカーを利用する場合には予め道路状況を理解して運転することは難しい。同時に、入ってさえいれば大丈夫と軽く考えている海外旅行保険もいざというときに機能しない場合もある。

 A大学3年生の仲良し4人組はカナダ旅行を計画し、インターネットを駆使して格安の航空券とホテルの予約をした。海外のホテルのホームページに直接アクセスすることは思ったより簡単で面白く、ホテルはスタンダードクラスで予約し、現地ではレンタカーを借りて周遊することにした。アルバイトをして貯めた貯金で14日間滞在できるよう宿泊費も交通費も節約したのである。4人のうちT君は自動車部のメンバーでB級ライセンスを持っているドライバーであり、そのほかのM君、S君、Y君の3人も自動車の普通免許をもっているので、運転手には事欠かない。4人の楽しいカナダ旅行はバンクーバーに到着したときから始まった。接する人々の心が米国より親切で温かいのである。隣同士の国でこれ程と思うほど違う。また、レンタカーでバンフまで旅行したときには、国土の規模の違いと大いなる自然に魅せられ、4人は生涯をこの地で暮らしたいと思ったほどであった。

 滞在も10日目で土地勘も出来つつあり、その朝はバンクーバー北部を周遊した。毎日運転を交代しながらレンタカーを駆ったがやはり運転のうまさはT君が一番であり、皆は次第にT君の運転を頼るようになった。T君も運転が好きで友人の運転には飽き足らなかったので喜んで引受けた。ただ、T君は出発前にスピード違反で検挙され日本で2ヶ月の免停になっており、講習で1ヶ月の停止に短縮されたがそのときも免停期間中であることを皆が知っていた。

 車は、バンクーバー北側のハイウェイの、通称『地獄坂』と呼ばれる事故多発地帯に差し掛かった。T君は、適切なスピード゙で走行していると思っていたが、平坦と思える道路が実際には下りで危険な程高速で走っていたのである。過去の事例は全て、感覚以上のスピードが出ていたことにより事故発生していたが、T君もやはり気付かなかった。 永い直線の後のカーブを通過しようとしてスピードが出過ぎていることに気付いたT君は、スピンを避けるため懸命に細かく断続的にブレーキ踏みながらハンドルを切ったが車はガードレールに接触して横転した。後続車がハイウェイパトロールに連絡し、パトカーと救急車が到着したとき、惨事の全貌が判明した。T君は顔面挫滅左眼球損傷、S君は車外に投げ出されて即死、Y君は車外に投げ出されて頚椎骨折、M君だけが軽い打撲で済んだ。

 現場から病院に運ばれた4人を待っていたのは、安堵ではなかった。治療費をどうするか、日本に搬送してもらう費用はどうするか、損害賠償責任は、損害賠償請求権は、等々、様々な問題が発生した。外国の医療は営利産業であり、入院治療費は誰が支払うのか、遺体の日本への搬送費用は誰が払うのか、これらが決まらないと次へは進められない。

  

T君の保険会社には、M君が代わって連絡したが、免停中の事故のため、保険はきかないという。M君自身についてはジェイアイの保険が治療費等を支払う手配をしてくれたが、S君のカード付帯保険では、「日本に帰ってから書類を出してください。」というだけで何もしてくれない。Y君は保険もない。途方にくれたM君は、ジェイアイ提携の現地アシスタンス会社の担当者に相談した。M君のけが自体は軽かったが精神的なショックが大きく、PTSDはあきらかであった。M君の相談の内容は「他の3人について対応がまったくされないので助けてほしい。」とのことであった。「亡くなったS君の親族が日本から来たときも保険会社の対応はなく、このため費用がかかっても構わないので処理をお願いしたい。」とのことであった。このときは、たまたま日本人の担当者がいて、献身的に努力して関係者に対応を説得してくれた。これに基づき同アシスタンス会社は3名それぞれのご両親から依頼書と支払誓約書をもらって(前払い金を取らずに)帰国までの手続と手配を行い、対応を完了した。彼らの保護者達は費用の全額をアシスタンス会社に自ら支払ったことは言うまでも無い。保険会社との話し合いはその後であった。本件は、それぞれが加害者であり被害者であった不幸なできごとである。

T君

運転手
B社の海外旅行保険加入
顔面挫滅左眼球破裂失明
シートベルト着用
日本で免許停止中

M君

ジェイアイ傷害火災の海外旅行保険加入
頭部・顔面打撲(入院なし)
シートベルト着用

S君

車外に投げ出され死亡
クレジットカード付帯海外旅行保険
シートベルト不着用
T君の免停を承知して運転を要請

Y君

車外に投げ出されて頚椎骨折
海外旅行保険未加入
シートベルト不着用
T君の免停を承知して運転を要請

 


海外旅行傷害保険傷害死亡・後遺傷害・治療費用担保特約


Quick Study !

ワンポイントレクチャー
<海外旅行保険の主な免責>
次に掲げる事由のいずれかによって生じた傷害
  • 故意
  • 自殺行為、犯罪行為または闘争行為
  • 被保険者が法令に定められた運転資格(運転する地における法令によるものを言います。)を持たないで、または酒に酔ってもしくは麻薬、大麻、あへん、覚せい剤、シンナー等の影響により正常な運転ができないおそれのある状態で自動車または原付を運転している間に生じた事故
  • 被保険者の脳疾患、疾病または心神喪失
  • 被保険者に対する刑の執行
(その他詳しくはご加入の保険約款をご確認ください。)
Q & A
Q::

T君は、免停中のため保険が支払われないことは分かったのですが、保険会社では現地対応もしないのですか?

A::

はい。保険約款で免責になると保険に入っていないと同じことになってしまいます。

Q::
カード保険は現地対応しないのですか?
A::

基本的にカード付帯保険は、キャッシュレス提携医等現地でのサービスはないものが多いのです。従ってご自身で手配してカードで治療費を立て替えて、後日請求しお金が戻ることになります。しかし、大きな事故では保険金額が不足するため大変ですがやはりご自身で対応するしかありません。

Q::
保険会社により対応・救助方法は変わりますが?
A::
はい。保険約款の解釈、判断、対応は各社ごとに行いますから、全く同じではありません。

One Point Advice:複数で旅行される場合はどこの保険であれ、同じ保険会社で、同じ保険金額で!




2006/8/18

つづく

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『自殺坂』と呼ばれるハイウェイにて傷害死亡・後遺傷害・治療費用担保特約


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