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世界の医療文化比較 -その7-
〜ドイツ編〜


 ドイツと聞くと、戦前は日本の医学を志す人が多く留学し勉強した国であることが知られている。そのため日本の人々は感覚的にドイツにおける医療文化を日本と近いものと思っている。しかし、世界で最も医療の分野で分業が進んでいる国であることはあまり知られていない。

  フランクフルトに駐在するTさん(32才)は、日本のメーカーの駐在員で赴任して2年になるが、病気をしたことがなかった。ところが、今年、休暇を取って9月中旬のオクトーバーフェストに行き、ミュンヘン市長のビール樽開栓式を見てから、3日間思いきりビールを飲み、楽しく休暇を過ごした。帰宅後は、少々吐き気がして食欲もなかったが二日酔いと思って気にしなかった。しかし、24時間経過しても症状は改善せず、二日酔いではないと確信して、海外旅行保険会社のサービスガイドブックに記載されている医師の診察を受けた。その結果、虫垂炎で、手術を受ける必要があると説明を受けた。医師の説明を聞くと、極めて死亡率の低い手術であることは日本と同じで、入院も3日間程度で日本より短いとのことであった。「日本では1週間程度入院しますが・・・。」と質問すると、保険会社が認めてくれればその方がベターであるという。つまり入院期間は、健康保険の認める日数が基準で医学的に必要かどうかではないことがわかった。Tさんは、自身の保険会社のサービスデスクに電話して確認すると、主治医が必要と判断した入院期間は制限なく認められ、支払い対象となるとのことであった。

  しかし、違いはそれだけではなかった。病院を紹介され、予約をしていくと、先に受付手続きと支払いを済ませ、その後問診と、検査を指示された。なお、ドイツの病院は紹介状がないと受け付けてくれない。それが済むと入院の手続きの説明を受け、また、予納金を要求された。これは海外旅行保険会社が手配してくれ実際には支払わずに済んだ。すべて支払が先である。現地の人で健康保険を持っている人も先に自身で建て替え、後に健康保険に手続きして還付を受けるという。翌日、初診をした先生が手術をすると思っていたTさんは、別の手術専門の医師が執刀すると聞いて驚いた。手術を行う医師、麻酔医、看護師、薬剤師の医療チームと挨拶し、手術室へ運ばれた。Tさんは局部麻酔で手術が行われた。 終始意識のあるTさんに医師から順調に終了したことが伝えられ、ホッとした途端、医療チームはにこやかに「さようなら」と挨拶して出て行こうとした。Tさんは「病室まで運んでくれ。」と哀願したが「それは、私たちの仕事ではない。」と断られ、「病棟看護師が来るでしょう。」と言っただけで立ち去ってしまった。『日本の看護師さんなら本人の役割以外のことを頼んでも可能な限り聞いてくれるのに・・・。』と大変不安に思ったTさんであった。わずかな時間であったが、Tさんには非常に長く感じられたという。その後病棟看護担当が来て病室まで運んでくれたが、局部麻酔であるからと、ベッドサイドで降りるように言われ、そこで帰ってしまった。病気でも可能な限り自分の力でやらなければならない、甘えを許さない環境を感じたTさんであった。

  日本の有名時計メーカーが10年間でわずか数秒しか狂わない時計を商品化してマーケット調査をしたところ、そのことを高く評価したのは、日本とドイツだけだったという話があったが、正確さを尊ぶドイツの人たちが、職務の分業制を決めた後は、『それを逸脱することは互いの権利を侵害する悪であり、許されないこと』を共通の基準として、これも正確に守っているのである。日本は規則と思いやりは別の次元で存在し、『あいまいさ』についても、それを評価する心情を同時に共有するものである。文化の違いとはいえ、医療を受けるには、日本の心の休まる環境を懐かしく思ったTさんであった。

 日本の医療制度はドイツを見習ったものであるが、ドイツは、病院はすべて公立であり、初診は行わない。つまり、プライマリーケアといわれる開業医の診察の結果病院へ入院が必要と判断された場合、紹介状が発行され、それを持参した場合だけ受け入れられる。日本より厳格である。
ドイツの救急医療体制は、考え方と体制及びその運用は大変優れたものであるといえる。これらの国で緊急を要することがあったときには、下記の概要表を参考に安心してそのサービスを受けられたい。

世界の救急医療体制 そのII
国名
ドイツ
日本
管轄
-
総務省(消防庁)
特徴
救急隊員(医師・看護師含む)が医療行為可 
原則不可
CallNo.
112
119
受付
救急センター職員
消防署員
受診方式
Triage Guideline Search
現場へ救急車とヘリコプターとどちらが早く到着できるかで出動決定。救急車には、医師同乗、看護師同乗等程度によって3種類あり。
   
到着順
ヘリコプター基地は8個所
派遣救急隊員
医師、看護師、運転手のチーム、看護師、運転手、助手のチーム、またはヘリコプターは医師同乗派遣。
消防署員
救急対応体制
ヘリコプター救急基地は全国78個所ある。公立・NPOおよび軍の救急組織が運営。
ADAC,DRF他
救急病院に運んでから、医療行為が開始される。

 

2007/11/26

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