今年2008年は、日本ブラジル交流年である。 6月には皇太子殿下がブラジルを訪問され、21日は100年前、笠戸丸に乗船した日本人移民が初めて上陸した地、サントスで記念式典が行われた。日本では多くの日系ブラジル人働いていて親しみのある国であるが、北部の開発途上の地域と南部の先進地域があることはあまり知られていない。

国土は大きく日本の23倍の面積を持ち、赤道の真下から南緯33度まで広がっているため概要を一言で表現できるものではないが、南部ではカナダと並んで中・小型旅客機を製造し、輸出している国であり、いわば科学技術立国といえる。また気候的には熱帯雨林気候から亜熱帯気候まで分かれており、感染症や風土病の流行は、多種にわたる。外務省の「世界の医療事情」によると北部アマゾニア地域のマラリア、雨期後のリオ・デ・ジャネイロ州のデング熱、ブラジリア周辺の森林地帯の黄熱病、およびコレラや寄生虫等が挙げられている。

リオ・デ・ジャネイロやサン・パウロのような大都市で日本人が治療を受ける場合は、ほとんど私立病院か日系医師のいる個人クリニックであろう。そこで病院の救急外来に行って、日本との違いを感じる最初の出来事は、最初に支払い能力を示す必要があることである。クレジットカードか現金、トラベラーズ・チェックがないと次へは進めない。日本では医師が何はともあれ治療をしてくれるが、やはり現地の私立医療機関は営利産業なのだと理解する一瞬である。なお、海外旅行保険のキャッシュレス提携病院を利用できる場合はこれらは省略される。支払は、診察、検査、薬局など全て別会計である。当然医薬分業となっている。治療費は高く、サン・パウロの日伯友好病院を例にすると入院一日当たり個室で約¥23,000.-、集中治療室であれば約¥49,000.-であり、これに治療費、検査費、医薬品が加算されるのでかなり高額である。医療レベルは先進国並みであるが、米国人の中には飛行機代をかけても米国に行き治療を受ける人もいるという。治療を受ける場合は通常予約制で待たされることはあまり無く、医師はインフォームドコンセントを重視して十分な説明を行う。また、医師の考え方も日本とは若干異なる点があり、例えば出産の場合では母親が翌日からシャワーを許可されたり、新生児と共にいられたりする点が違うが、それぞれに理由があり一概に評価はできない。

頭痛、軟便、肩こりで風邪と思った28才の青年が医師の診察を受け、数日後、治療費が高いことから自己診断で『直に治るだろう。』と思い治療を中止して旅行を継続した。その後、急性腎不全を起こして重篤になり入院した例があった。(この青年はアマゾニア地方を訪れておりマラリアに罹っていたことが後で判明した。)このようにコンビニやスーパーでものを買うように自分のほしいものだけを手に入れる感覚で医師の診察を受ける日本人患者が散見される。コミュニケーション能力の問題もあり、必要な病歴や発病前の行動および経過を医師に提供しないため重要なポイントが見過ごされた事例である。医師は十分な情報があって初めて正確な診断ができるのであり、「外国人の初診の患者には苦労する。」という所以である。この青年は後日、当初の医師の誤診ではないかと主張したが、身勝手と言わざるを得ない。このようなことがないように海外旅行保険に加入している場合は、保険会社の窓口に報告してその支援やアドバイスを受けることが望ましい。このようにブラジルは国土が大きな国で、医療のレベルや施設も一概に言えないが、大都市圏は先進国であり、費用の問題を除けば、信頼できる病院がいくつもある。それらは外務省のホームページで情報を得ることができる。出発前に万一のことを想定して情報収集と、現地での的確な対処で楽しい旅行をされるよう祈る次第である。             

以上  

2008/6/25

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